1977年にパルコのテナントオーナーに向けた「ファッションビジネス情報誌」として創刊した
マーケティング雑誌『月刊アクロス』。雑誌休刊後も、Webで果敢に発信を続けているが、
中でも人気なのは1980年8月にスタートした「定点観測」だ。毎月、街頭撮影調査(定量)とデプスインタビュー調査
(定性)を実施し、街を歩く人々のファッションや価値観、風俗を観察・分析。ファッショントレンドだけでなく、
それぞれの時代の若者たちのライフスタイル特性をシャープな視点で分析し、既存のマス・マーケティングにはない
独自のマーケティング手法、「ストリートマーケティング分析」を確立した。
その「定点観測」が今年30年を迎える。毎月約2千カットに及ぶ路上を行く人々のファッション写真データ
は累計50万を超える。
■いまこそ有効な「定点観測」
「定点観測」は手法的には質的研究に分類することができる。特に社会科学での質的研究には
グランデッド・セオリー、ナラティブアプローチ、アクションリサーチなど多くの枠組みがあり、質的研究が
大きな潮流となっている。
パルコ「ACROSS」の定点観測のルーツは今和治郎の「考現学」にあり、エスノグラフィーともいえる。
しかし、この手法の一つのユニークなポイントは「質的研究」と「量的研究」の融合、さらには「定点」とい
う変化を継続的に見続けることにある。
「定点観測」はモノをみる一つの手法、手段に過ぎないが、捉えることが難しくなった新しい消費者と
消費行動を理解する一つの有効な手段として、ファッション業界に止まらず多くの業界や業種で調査研究手法と
して再認識すべき手法としても注目したい。
■「トレンド2年越し現象」の意味するもの
定点観測による研究によって、興味深い消費動向が明らかになっている。これらのことは単なる消費ト
レンドというよりも業界全体のシステムの再構築を示唆していることに他ならない。
ACROSS編集部が注目しているキーワードのひとつが「トレンド2年越し現象」、つまり、次々と新しい
ものに変わっていくのではなく、ベースは変わらないけれど、組み合わせが変わっていく時代であるというのが、
2000年代の大きな特徴だという。これに対して、特にアパレルメーカーはマーケットイン発想から商品開発を行
っているので、MDの同質化に拍車がかかっている。
従来であればイノベーション曲線での「イノベーター」を押さえることによって普及の予測が可能であっ
たが、現在ではあっという間に普及してしまう。だから変えたくなる人が出てくるが、大きく変えるのではなく、
少しだけ変える。このように、くるくる変化する部分と変化しない部分が混在していて、トレンドが読み取りにくくなっている。
■従来マーケティングの限界
この現象以外にも、定点観測から「コスチューム・プレイ」 感覚の台頭や「ノーノーズ(買わない族)」の台頭、
「私」視点から「社会」視点へ、「Less is More」などの時代を読み取るキーワードからひしひしと感じるのは従来マーケ
ティングの限界であり、マーケットインの発想とは違う提案の必要性である。
パルコ「ACROSS」の定点観測はファッショントレンドを超えて、様々なマーケティングの側面を考える機会を与え
てくれる。