「コーナーで差をつけろ」というキャッチコピーのアキレスのジュニア向け運動靴「瞬足」。
2003年発売以来、子供たちの間のクチコミで広がり、100万足売れれば大ヒットといわれる業界で、
累計販売数2000万足に迫る大ヒット商品となっている。これは瞬足のターゲットである幼児〜小学生
が約1000万人なので、単純計算では小学生の二人に一人が履いていることになる。売場でも子ども靴
コーナーへ行くと棚の半分以上は「瞬足」だ。
■五重の競争圧力
「瞬足」開発の背景には、メーカーを取り巻く厳しい競争環境変化がある。それはNIKEをはじめとした
大手ナショナルブランドのジュニアスポーツ市場への参入。得意先である大手量販店のPB開発。SPAに
よる自社開発。さらにはファブレスのアウトサイダーの低コストの商品開発。それに当然既存メーカーと
の戦いがこれに加わる。
これはジュニアシューズという業界に限ったことではない。このような競争構造の中でどのような差別化
商品の開発が可能かという視点でも「瞬足」のケースは参考になる。
■生産者視点からの大転換
「瞬足」のヒットは、生産者視点から消費者視点への転換という大きな変革が伴っていることも大きい。
実需需要でしかも安定需要であるジュニア向けシューズは必然的にマンネリに陥る恐れが常にあった。
足に合っていないサイズ展開、通気性の悪い素材、ごてごてしたデザイン、一律的なカラーリングなど、
まさしく生産者視点の商品開発に終始していた。このことを「瞬足」を開発する祭に、消費者視点で
すべて見直したこと、品質の圧倒的改良という要因も忘れてはならない。
■自然発生的口コミ
「瞬足」のヒットの要因は、先にあげた消費者視点の商品開発と尖ったコンセプトによるところが大きいが、
それ以上に口コミが非常に大きな役割を果たしている。
現在ではブログを中心にした仕掛けられた口コミが多いが、「瞬足」の場合、メーカーの仕掛けは全くなく、
自然発生的に生まれた口コミであった。このことが小学生の二人に一人が履いているという驚異的なヒットに
なった要因でもある。
■専用商品
二人に一人が履くとなれば、同じ学校で友達と“かぶる”ことが当然多くなる。小学生といえども他人と身に
着ける物が重なることは嫌がるだろう。このことを乗り越えなければならないはずだ。 その答えの一つが
専用商品といえる。例えばカタログ商品は30アイテムだが、専用商品(別注品)はその倍の60アイテムある。
これはメーカーのPB対応に一つの有益な示唆を与えてくれる。
■親心に刺さる
運動会は1年に1回だ。しかも子供の足はすぐに大きくなる。「瞬足」の価格は平均2900円。高くはないが
、安くもない。ジュニア向け運動靴ではいくらでも安い商品はある。しかも購買者は母親だ。そのゲート
キーパーである母親を超えなければならない。
「運動会」は子供たちにとっても重要なイベントだが、それ以上に親にとっても特別な意味をもっている。
子供の活躍を期待するのはどの親も同じだ。この親心に刺さったことが「瞬足」を大ヒット商品に押し上げた、
隠れた要因といえないだろうか。